2019.4.8

MUSIC

Musical illusion

- Stream -

Leonid ZVOLINSKII

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Musical illusionでは、シリーズAuditory Illusion in Music(音楽におけるイリュージョン)とリンクして、テーマごとに出てきた錯聴効果を使った新作を、作者の作品解説と共に公開していきます。


Stream / Leonid ZVOLINSKII


作曲者作品解説

この曲の中では、イリュージョンが音域によって生み出されています。まず冒頭では、ピアノのみで提示部のテーマが演奏されます。

[02]

その後、同じテーマが今度はオーケストラでなぞられますが、メロディの一音一音が、異なる楽器で弾かれます。

[03]

ここでは、共通の音域と音の動きというロジックから統合のイリュージョンが起きます。それぞれの楽器は単音や、一和音を弾いているだけであるのにもかかわらず、脳では、それらがひとつのラインにまとめられるという効果で、冒頭では一つの楽器(ピアノ)で弾かれたテーマが、その後、オーケストラの様々な楽器で複合的に聴くことができます。
提示部の後はテンポの速いテーマが始まります。このテーマは「音―別の音―再び最初の音」という動機(モチーフ)に基づいています。このモチーフは、弦楽器群が一つの音色で演奏しており、イリュージョンのない部分です。

[04]

しかし、展開部では統合されたイリュージョンの断片が現れます。

[05]

パート別に聴くと、メロディラインがどこかで途切れて実際には様々な楽器で演奏されているのが分かります。

[06]

さらに先に進むとピアノで類似のモチーフが出てきますが、音と音の距離(音程差)が徐々に広がっていくと、パートの分離が始まります。高音域の音の反復と低音域の下降する音の二つの異なるラインとして聞こえてきます。 ※Illusion Forum 音脈分凝 / 周波数差 参照

[07]

その後、同様の分離が弦楽器群でも現れます。はじめは一緒に演奏されますが、やがて音程差が開きパートが分離されていきます。

[08]

ですが、メロディが同じ音域になると、弦楽オーケストラは一繋がりになって感受されます。

[09]

音程差が一オクターヴを超えると、パート間の分離ははっきりと聞き取れるようになりますが、それまでは脳はメロディのロジックに従って異なる音色の音さえ一つの線として統合させようとします。分離が特に顕著なのは、一つの音が何度も繰り返され、さらに均一のリズムが形成されたときです。[07]と[08]を聞いてみてください。

大きなクライマックスの後、最初のテーマが戻ってくるコーダで曲が終わります。


(作曲=Leonid ZVOLINSKII / 翻訳=森谷 理紗)


Leonid ZVOLINSKII

ロシアの作曲家、マルチインストゥルメンティスト、サウンドプロデューサー。 リャザン市生まれ、幼少期より音楽を始め、12歳で「若手作曲家コンクール」で優勝。モスクワ私立音楽学校特待生。グネーシン音楽アカデミーカレッジ音楽理論科卒業後、P.I.チャイコフスキー記念モスクワ音楽院作曲科入学。同音楽院を首席で卒業。リトフチンテレビ・ラジオ放送人文大学専門コースで「オーディオビジュアルアートサウンドプロデューサー」資格取得。 オーケストラ作品、室内楽、声楽曲等のアカデミック音楽作品のほか、ポップ、ロック、Hip-Hopなど様々なジャンルの作曲、演奏を行う。映画音楽、CM、音楽舞踊劇等を手がける。

森谷 理紗 [ Risa MORIYA ]

神奈川県生まれ。北鎌倉女子学園高校音楽科卒業。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院音楽研究科修了。グネーシン音楽アカデミー研修(音楽史・音楽理論)を経てP.I.チャイコフスキー記念モスクワ音楽院大学院博士課程学際的音楽学研究科修了(芸術学/音楽学博士)。2010年度外務省日露青年交流事業<日本人研究者派遣>受給。その後同音楽院作曲科3年に編入、その後卒業。モスクワ音楽家協会150周年作曲コンクールグランプリ。著書”Vzoimoproniknovenie dvyx muzikal’nyx kul’tur s XX - nachala XXI vekov : Rossia- Iaponia(20世紀から21世紀初頭にかけての二つの音楽文化の相互作用:ロシアと日本)”(2017 サラトフ音楽院)で第2回村山賞受賞(2018)。モスクワ音楽院客員研究員を経て、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員。

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