2020.9.17

MUSIC

Musical illusion

- Typewriter -

Leonid ZVOLINSKII

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Musical illusionでは、シリーズAuditory Illusion in Music(音楽におけるイリュージョン)とリンクして、テーマごとに出てきた錯聴効果を使った新作を、作者の作品解説と共に公開していきます。


Typewriter / Leonid ZVOLINSKII



作曲者作品解説

この曲は、タイプライター(印字機)のそれぞれの文字が二つの音を持っているというコンセプトに基づいてできています。その音の一つは、文字盤の打鍵による物理的な音で、もう一つの音とは文字盤に書かれたそれぞれの文字を示唆するセマンティック(意味論的)なものです。

この作品には人の声を短い音に加工した場合の知覚のイリュージョンが応用されています。音と音との間隔があまりにも小さく、文字が即座に切り替わる場合、人の耳にはロボットの声の様な機械音として感受されるような音ですが、実際には、人の声をa-i-u-e-oの5つの母音を100msで切り取り、連結させた音です。

この例からもわかる様に、人の調音器官は瞬時の音の移り変わりに適するものではないため、脳はこうした音を人の声としてではなく、むしろ効果音として知覚するのです。タイプライターの文字盤の機械音は上述のロボット的な声と合わさっているのですが、それぞれの音で母音が変化しています。これらの二つの音の層の組み合わせは何か具体的な文章を作るものではありませんが、言葉のない、言葉についての音楽という奇妙なコンセプトを生み出しつつ、文章の存在をただ示唆しています。

*この錯聴はイリュージョンフォーラムより「言語音知覚の頑健性」/「母音連結」を参照したものです。
http://www.kecl.ntt.co.jp/IllusionForum/a/concatenatedVowels/ja/index.html


(作曲=Leonid ZVOLINSKII / 翻訳=森谷 理紗)


Leonid ZVOLINSKII

ロシアの作曲家、マルチインストゥルメンティスト、サウンドプロデューサー。 リャザン市生まれ、幼少期より音楽を始め、12歳で「若手作曲家コンクール」で優勝。モスクワ私立音楽学校特待生。グネーシン音楽アカデミーカレッジ音楽理論科卒業後、P.I.チャイコフスキー記念モスクワ音楽院作曲科入学。同音楽院を首席で卒業。リトフチンテレビ・ラジオ放送人文大学専門コースで「オーディオビジュアルアートサウンドプロデューサー」資格取得。 オーケストラ作品、室内楽、声楽曲等のアカデミック音楽作品のほか、ポップ、ロック、Hip-Hopなど様々なジャンルの作曲、演奏を行う。映画音楽、CM、音楽舞踊劇等を手がける。

森谷 理紗 [ Risa MORIYA ]

神奈川県生まれ。北鎌倉女子学園高校音楽科卒業。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院音楽研究科修了。グネーシン音楽アカデミー研修(音楽史・音楽理論)を経てP.I.チャイコフスキー記念モスクワ音楽院大学院博士課程学際的音楽学研究科修了(芸術学/音楽学博士)。2010年度外務省日露青年交流事業<日本人研究者派遣>受給。その後同音楽院作曲科3年に編入、その後卒業。モスクワ音楽家協会150周年作曲コンクールグランプリ。著書”Vzoimoproniknovenie dvyx muzikal’nyx kul’tur s XX - nachala XXI vekov : Rossia- Iaponia(20世紀から21世紀初頭にかけての二つの音楽文化の相互作用:ロシアと日本)”(2017 サラトフ音楽院)で第2回村山賞受賞(2018)。モスクワ音楽院客員研究員を経て、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員。

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ロジャー・シェパードというアメリカの心理学者・認知学者がいますが、彼の主な研究テーマの一つが感覚のイリュージョン(錯覚)です。この分野でのシェパードの最も有名な発見に、「シェパードの机」の錯視 («Shepard tables»)と、今回使用した「シェパードトーン」(«Shepard's tone»)という音のイリュージョンがあります。

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