2018.4.23

MUSIC

Musical illusion

- Siren -

Leonid ZVOLINSKII

MUSIC   2018.4.23  |   HOME > MUSIC > Musical illusion

Musical illusionでは、シリーズAuditory Illusion in Music(音楽におけるイリュージョン)とリンクして、テーマごとに出てきた錯聴効果を使った新作を、作者の作品解説と共に公開していきます。


Siren / Leonid ZVOLINSKII


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作曲者作品解説

「交差による旋律の統合」のイリュージョンは声部が並行して動いている感覚を生み出します。脳は2つ、あるいはそれ以上の声部を集積し、統合します。その結果として、客観的には楽譜にも実際の演奏にもないメロディが主観的には聴こえることになるのです。「Siren(セイレーン)」の例を聴いてみましょう。イリュージョンが隠れているのがわかるでしょうか。

このイリュージョンのデモンストレーションでは、セイレーンというファンタジックなイメージをテーマにしています。ギリシャ神話に登場する人魚のセイレーンは美しく、しかし恐ろしい存在でした。伝説によれば彼らは美しい歌声で魅了して船乗りたちの意識を狂わせて船を遭難させ、惑わせては自分の島に呼び寄せました。そこで船乗りたちを待っているのは恐ろしい運命です。こうしたミステリアスで幻想的な音のイメージを、このイリュージョンで演出することができます。さて、この曲では、大部分の音は、感覚的に聴こえるものとは違います。

まずは2本のホルンパートを一緒に聞いてみましょう。

次にそれぞれを別々に聴いてみましょう。

ホルンI

ホルンII


楽譜を見ると、ホルンIは9度下降し、ホルンIIは7度上行していることが一目瞭然です。ですが、同時に聴くと、違って聴こえます。つまり、脳ではホルンIの第1音と、ホルンIIの第2音を一つのラインと繋がり、ホルンIIの第1音とホルンIの第2音が繋がって2本のホルンがオクターブ下降しているように錯覚するのです。楽譜に注目してください。楽器のパートごとに色付けがしてありますが、脳の中では楽器ごと(色別)ではなく、音高の近さによって繋げられます。


二つ目の重要な統合の要素は音色です。この場合は同じ種類の2つの楽器でした。では楽器の種類が違う場合はどうなるのでしょうか。次にハープとピアノの組み合わせを聴いてみましょう。まず、それぞれの音はこうです。

ピアノ

ハープ



同時に鳴らすと次のようになります。


異なる音色、ステレオ配置、そして音の場合でも、楽器が同時に鳴るとやはり私たちの耳には統合されて聴こえるのです!
では主旋律を聴いてみましょう。2本のフルートが実際に楽譜上に書かれて演奏されるものは、私たちの潜在意識が聴き取って感じるものとは全く違います。それぞれの楽器を別々に演奏するとメロディラインは壊れます。

フルートⅠ

フルートⅡ


一緒に演奏されると奇怪なメロディでもなめらかに聴こえます。


それでは次に、最も極端な例を見てみましょう。今度は異なるメロディ、異なる音色と異なるステレオ空間の組み合わせが曲の最後に出てきます。ここではファゴット(右耳)とバスクラリネット(左耳)が低い音域で鋭い音を奏します。まず、それぞれの音を聴いてみましょう。楽譜のようになっています。

ファゴット


バスクラリネット


重ねて両耳で聴くと次のように並行3度で進行しているようになります。


「実際に鳴っている音はどうなっているのか?」おそらく多くの人が一つの答えを出そうとしても答えることが難しいのではないでしょうか。
最後にもう一度曲を楽譜を見ながら通して全体を聴くことをおすすめします。

» Siren 楽譜PDF

(作曲=Leonid ZVOLINSKII / 翻訳=森谷 理紗)


Leonid ZVOLINSKII

ロシアの作曲家、マルチインストゥルメンティスト、サウンドプロデューサー。 リャザン市生まれ、幼少期より音楽を始め、12歳で「若手作曲家コンクール」で優勝。モスクワ私立音楽学校特待生。グネーシン音楽アカデミーカレッジ音楽理論科卒業後、P.I.チャイコフスキー記念モスクワ音楽院作曲科入学。同音楽院を首席で卒業。リトフチンテレビ・ラジオ放送人文大学専門コースで「オーディオビジュアルアートサウンドプロデューサー」資格取得。 オーケストラ作品、室内楽、声楽曲等のアカデミック音楽作品のほか、ポップ、ロック、Hip-Hopなど様々なジャンルの作曲、演奏を行う。映画音楽、CM、音楽舞踊劇等を手がける。

森谷 理紗 [ Risa MORIYA ]

神奈川県生まれ。北鎌倉女子学園高校音楽科卒業。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院音楽研究科修了。グネーシン音楽アカデミー研修(音楽史・音楽理論)を経てP.I.チャイコフスキー記念モスクワ音楽院大学院博士課程学際的音楽学研究科修了(芸術学/音楽学博士)。2010年度外務省日露青年交流事業<日本人研究者派遣>受給。その後同音楽院作曲科3年に編入、その後卒業。モスクワ音楽家協会150周年作曲コンクールグランプリ。著書”Vzoimoproniknovenie dvyx muzikal’nyx kul’tur s XX - nachala XXI vekov : Rossia- Iaponia(20世紀から21世紀初頭にかけての二つの音楽文化の相互作用:ロシアと日本)”(2017 サラトフ音楽院)で第2回村山賞受賞(2018)。モスクワ音楽院客員研究員を経て、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員。

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